ふろなし生活

郊外のニュータウンから、下町の長屋に引っ越してきました。

1日が終わる音

最寄りの風呂屋は深夜1時半まで営業している。そんなに遅くまでやっていて苦労ばかりじゃないかしらと思ったけれど、深夜はかき入れ時なのだ。おおよそ夜中の12時をまわったころに銭湯に来るような生活リズムの人間が多いのである。
 
午前1時7分。営業終了まで30分を切ったころ、ブクブクボコボコと音を立てていたジャグジーがぴたりと止まる。
途端に湯気とともにぼんやりとしていた空気が澄み切って、背筋が伸びるように静まりかえる。洗面器の跳ねる音、歯磨きのリズム、絞った手ぬぐいからこぼれるしずく、大きなため息とひとりごと、女湯のドアの開け閉め……それまで聞こえていなかった風呂屋の音が急に鮮明になり、シャンプーで目を閉じていた暗闇の世界が、ぐんと奥行きを帯びてくる。それぞれの1日が終わってゆく音が、重なるのでも呼応するのでもなく、月並みな表現だけれど不思議とひとつの音楽のように響き合っている。
 
泡立っていた浴槽のお湯もそれらしく水平を保つようになる。古今東西、水は流れているから清らかなのであって、淀んだ途端に見えなかった皮脂やら体毛やらが目につくようになる。ああ、この人たちと同じ風呂に入っているんだというのが急にリアルに思えてくる。
 
もう10分も経つと電気も消される。サイレント蛍の光。見ず知らずの男どうし、薄暗い空間に全裸で佇むのもなんとも居心地が悪いので、駆け込み客を尻目に引き上げる1時20分。湯もぬるくなってきた。
 
夜風にイッてしまいそう。睡眠時間を計算して憂鬱になりながら酒飲んで寝る。